2022年8月1日 6:51:40
Imazu
「同田貫がうなる 兜割り成功の秘密」
【日本刀の切れ味】
日本刀の切れ味の凄まじさは、鉄砲切り兼光や圧切り長谷部あるいは梶原健吉の兜割りの逸話に見るように広く知られています。しかし、日本刀で物体を切断する場合、刀のどの部分が最も良く切れるのかを正確に明言できる方は少ないのではないでしょうか?
【天覧兜割り】
明治20年、明治天皇の御前で天覧兜割りを成功させた人物に梶原健吉という直新影流の達人がいました。彼は愛刀の同田貫を用いて明珍の鉄兜を三寸五分(約10.6㎝)も斬ったといいます。
当時、兜割りに挑戦したのは健吉を含めて3名、何れも勇名を馳せた剣術の達人達でしたが、成功したのは健吉ただ一人でした。
この成否の明暗を分けたのは果たしてどのような理由が考えられるのでしょうか?
【日本刀の物打】
実は、刀には最も切れる部位というものが存在します。一般的には、物打といわれる部分です。しかし、物打といわれる部分が具体的にどこに当たるかの明確な定義はありません。古来より、物打とは切先三寸程の部分といわれておりますが、科学的に見て、刀の最も切れる部位は切先三寸ではないことが判っています(注)。
【現代科学が明かす日本刀のスイートスポット】
室蘭工業大学の名誉教授 臺丸谷政志(だいまるや まさし)先生の研究では、刀のスイートスポット(切断能力の高い部位)は、切先からおよそ20cm~21cmの僅か1cmほどの部位に限定されるといいます。
日本刀の物打を科学的に特定するのに、臺丸谷先生は日本刀モデルに物を衝突させ、その衝撃が日本刀モデルにどのように伝わるかを分析しました(日本刀の衝撃応答の研究)。
各部位でこの衝撃応答を測定した結果、衝撃応答の値が最も少ない部分が明らかになりました。これが、先程示した切先からおよそ20cm~21cmの僅か1cmほどの部位に該当します。
【ホームランの手応え】
衝撃応答の値が少ないということは、刀の運動エネルギーが最も効率よく対象物に伝わる場所と言い換えることが出来ます。
例えば、野球のバッターの手ごたえを例に考えてみましょう。
ホームランを打ったバッターにその手応えを聞くと、殆ど手応えなく、軽くバットを振り抜けたという返事をよく聞きます。これを科学的に説明すると、バットの運動エネルギーがボールに効率よく伝わった結果、ボールは遠くまで飛ぶという説明になります。
逆にバットの運動エネルギーが分散すると四方八方に逃げた衝撃がバットを通じて手に伝わります。これが「手がしびれる」という現象です。ボールに伝わらなかったエネルギー分ボールは遠くに飛ばず、結果として凡打になるのです。
刀の場合も同様です。切れる部位では衝撃応答は小さくなります。もちろん、刀の形状や反り具合によって刀のスイートスポットは多少変化するのでしょうが、剛性の高い日本刀ではその差は非常に少ないと考えられています。
【兜割り成功の秘密!】
この実験結果から、梶原健吉は兜割りの際、裂帛の気合を込めて、刀身を振りかぶり、僅か1cmほどの刀の物打部分を、刃筋をぶらさずに正確に明珍の鉄兜の上に振り下したことになります。刃筋が僅かでもぶれれば、また、物打を少しでも外せば結果は違っていたでしょう。まさに神業!
切った同田貫の切れ味はもちろん、その技の精妙さと天覧という極度に緊張を強いられる状況下でこの偉業を成し遂げたその精神力には驚かされます。
最後にこの同田貫派の作品を紹介したリンクを本ページトップに貼っておきました。作品鑑賞を通じて、健吉の兜割りの妙技に思いをはせてください。
日本刀専門店 銀座長州屋