2024年5月18日 4:27:26
Imazu
【第十六回 時代の上がる一文字派の地鉄】
【地景と映りを持つ一文字真忠の地鉄観察】
薙刀真忠の刀身中央部分の拡大写真です。
杢目交じりの板目肌が地景で明瞭に現われて迫力があるのがお判りいただけると思います(一枚目)。
真忠の区上の写真(一番目)では、映りが幽かに見えます。鎌倉時代の備前刀にはすべてではありませんが、黒い映りが鮮明に表れた作品が多くあります。映りの再現は非常に困難であることから、黒映りが鮮明な作品はそれ自体が非常に貴重です。
古刀の地鉄は鍛え肌が鮮明なのに地鉄に潤いがあります。写真(二枚目)は福岡一文字の物打辺りのもので、地鉄が均質になっているのがお判りいただけるでしょう。
【薙刀は婦女子の扱う武器のイメージですが】
鎌倉時代前期の一文字派と分類される真忠の薙刀を仔細に観察してみましょう。
姿格好は、江戸時代に婦女子の嗜みとされた薙刀とは随分雰囲気が異なります。
物打辺りの身幅が特に広いのは薙刀の大きな特徴ですが、区上辺りの身幅も広く、
鎬筋が高く棟寄りの肉が削がれて断面が菱型のような構造です。
切り込んだ刃の通り抜けを容易にするための工夫です。
単に薄く造り込んだのでは相手との打ち合いで負けてしまいますから、鎬を高くしてがっちりとさせています。茎部分も特に厚く仕立てられているのは、相手の刀を茎部分で受けることを想定したものです。
鋒の反りは控えめで、棟が極端に薄いものですから、棟側の先端にも刃が設けられています。ここで掻き斬る効果を求めたのでしょう。
見るからに恐ろしい姿です。
【備前刀の地肌の基本】
地鉄は、刃寄りに杢目が強く現われているのがよく判ります。即ち深みのある地景が肌目に沿って現われ、さらに地沸がこれに働いているために肌目が層状にくっきりと現れています。備前刀工の基本的な鍛え肌、杢目交じりの板目肌であることが明瞭です。
以前に、地鉄や刃文を仔細に観察するには光を直接反射させて鑑賞することを述べました。微妙に角度を変えながら鑑賞すると、細かな地沸で覆われた地鉄は、白っぽいというより明るく冴え、時に透明感さえ感じることがあります。もちろん感覚的なことですが。この明るい地鉄こそ一文字派の大きな特徴です。
【激しい変化に驚く!黒映りの躍動感・・・】
さらに注意深く観察すると、刀身平地の鎬寄りに激しく乱れた映りが現れているのが分かります。映りは、写真では再現し難い微妙な働きであることは以前に述べた通りです。備前物の写りは古千手院派のそれとは趣を異にし、丁子状に複雑に出入りした文様となる傾向があります。再度写真をご覧下さい、地の中に地景や鍛え肌とは異なる淡い文様のあることが、微かに分かるかと思います。辛うじて写真でも鑑賞可能な、映りによる自然味ある景色です。
【福岡一文字の映りとの比較】
この映りと先に述べた地沸付き地景の現われた杢目交じりの板目肌の複合になる地鉄が生み出す変幻なる空間は、焼物の肌に擬えられるほどに味わい深いものです。
参考に、鎌倉時代中期の福岡一文字の地鉄をご覧下さい。均質に詰んで細かな地沸で覆われています。鎬寄りの映りが判るでしょうか。
日本刀専門店 銀座長州屋