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2023年7月25日 3:49:51

Imazu
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第十三回 古千手院の地鉄の映り

(関連リンク)

太刀 銘 行国(古千手院)

【正倉院御物に通ずる美しさ】

 刀の鑑賞の要素とは、姿形だけではないことを説明してきました。日本刀の基本は平安時代中期にほぼ完成しているのですが、技術的にはまだ改良されるべき部分が多くあったと言えるでしょう。次第に鋼の精錬技術が高まって不純物の少ない素材が用いられるようになり、さらに折り返し鍛錬の技術も高まり、鎌倉時代に至って、たたらによる最適な素材の生産技術、折り返し鍛練による作刀技術さらに切れ味を最大限高める刃文を意図した通りに行う焼き入れの技術が最高潮に達しました。
この古千手院太刀の魅力とは、形こそ以降の武士が盛んに用いた反りの強い太刀に他なりませんが、実は正倉院御物などの古剣に通じるものがあるのです。

天使顔
天使顔

【揺れるような板目と無数の地景】

さて、この太刀の地鉄は、揺れるような板目肌に無数の地景が自然に現われ、これによって肌立つ風があるものの肌目の間が総体に微塵に詰んでおり、ねっとりとした質感(刀剣界で用いられている感覚的な表現の一つ)が窺えます。さらに全体に映りと呼ばれる働きが現われ、総体に白っぽく明るい肌合いなのですが、映りによる色合いの濃淡が肌目の動きに伴うように変化しています。

天使顔
天使顔

【感動的な映りの美観】

この映りという働きは、撮影機材や撮影技術が進んだ現在でも、繊細に過ぎるため写真での再現が難しいことから、言葉だけでの説明で御容赦願います。即ち、焼き入れの際に生じる働きの一つで、息を吹きかけたように淡く白っぽい部分と黒っぽい部分が斑となって地鉄の表面に現われるものです。時には刃文を写したように、互の目状、丁子乱状などから直状の単調なものまで様々。光を反射させて鑑賞すると、その微妙で幽玄味のある景色に飲み込まれてしまいそうに思えるほどに感動的です。映りは、一般的に弱いライトを直接刀身に反射させて鑑賞します。

天使顔
天使顔

【見る角度で表情を変える変幻万化の美しさ】

特にこの古千手院の映りは一際古風で、鍛え肌と地景との織り成す綾模様のように変化に富んでおり、鑑賞するライトの角度を違えると見え方が変わるなど、その容貌を眺めていると、ついつい時間の過ぎ去るのを忘れてしまいます。
映りという働きは鎌倉時代の備前刀、あるいは山城刀で良く知られています。地域によって現われ方などが微妙に異なるのですが、質の良い地鉄、その折り返し鍛錬の高い技術、そして適度な焼き入れ温度によって生じるものです。

天使顔
天使顔

【映りの謎】

ところが、鋼の精錬技術が高くなった後代、ずっと時代が下って江戸時代以降の刀には、映りの現われた作が頗る少なくなります。

天使顔
天使顔

【なぞの解明に挑む現代の名工・・・】

現代でも再現は大変難しいと言われていますが、無鑑査刀匠と呼ばれる現代最高クラスの刀匠の作品中にこの映りを再現したものがあり、日本刀の謎の解明が進められています。

天使顔
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日本刀専門店 銀座長州屋

​Ginza Choshuya co&ltd

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